2014/03/01

研修の効果

先日、某中小企業向けの研修で、講師を務めさせていただきました。その会社は、かなり厳しい経営状態が続いています。社員のモチベーションも下がっており、全社的に停滞感が漂っているような状況でした。そこで、社長や人事担当役員が注目したのが、例えば階層別にマネージャーにはマネジメント研修といったものを実施するのではなく、新入社員からベテラン・リーダークラスまで混合で、全員に同じ研修を受けていただくというものでした。また、班構成も、部門をまたいだ組み合わせとしました。結果は、事前の想定をはるかに超えて、手ごたえの残るものとなりました。
若手層からは、「自分の仕事が他部署やお客様にどうつながっているのか、仕事の意味とか意義のようなものが分かって、少し元気になりました」、「自分のコミュニケーションスタイルとか、不足していた点などが見えて今後に活かせそう」、「日常的な仕事のやり取りでは決して話すことがないようなテーマをじっくり討議できて、非常に有意義でした」といった声が聞こえてきました。
中堅層からは、「これまで会社や自分の使命といったものを考えたことがなかったが、明日から違った気持ちで仕事に向き合えそうです」、「文句を言っても環境は変えられないので、自分にできることを精一杯やっていくだけだと改めて感じた」、「自分のキャリアを考える良い機会にもなった」といったコメントをいただきました。
リーダー層からは、「部下たちの考えや価値観などの人となりがつかめて良かった」、「大いに刺激的な二日間でした。エネルギーを再充填してこれから巻き返しを図ります」、「他部署のリーダークラスやメンバーたちと交流ができて、今後の社内コミュニケーションが円滑に進みそう」などというご意見がありました。
とても良い雰囲気で研修を終え、受講生でもあったリーダーの方に駅まで送っていただいた車中でのことです。その方はハンドルを握りながら、自分や会社が置かれた厳しい環境を踏まえて、非常に強い覚悟を口にされました。
「かなり厳しい状態が続いていて、正直なところ、厳しいかなと思っていたのですが、やるべきことが見えてきました」
「どうしたらこの雰囲気を打開できるかと悩み続けていましたが、この二日間で既に変わり始めていますので、これからみんなで力を合わせれば何とかやっていけそうです」
「本当にお恥ずかしい話ですが・・、部門トップとしての自覚みたいなものが、改めて芽生えた感じです。社長は、実はこれを狙ってたんでしょうかね」
「もう少し整理したうえで、社長や部下たちともじっくり話し合ってみます」
ご自身の胸中を正直にお話くださり、強く伝わるものがあって、思わず涙腺が熱くなりました。
このリーダーの方とのやり取りを受けて、それまで皆さんが抱えられていた漠然とした不安のようなものが、前向きなパワーや小さな自信に変わりつつあるという確かな兆しを感じました。

もちろん、たった二日間の研修で社内を劇的に変えられるのかというと、そこまでの力はないかもしれません。しかし、停滞していた雰囲気を変える一石を投じたことにはなったと感じます。あとは、強い自覚と責任感が生まれたリーダークラスの取り組みに対して、メンバーたちが主体的に動き始め、部門間連携なども含めて、好循環がまわっていくでしょう。リーダーの方が嘆いていた「まわりが急がしそうでも、見て見ぬ振りをする」といった状態を脱却し、「三遊間のゴロを率先して取りにいく」ような協力関係や支援的な関わりができていくはずです。今後が大いに楽しみです。

現在は、どの企業においても、社員の数は減り続けている一方で、それに反比例するかのようにやるべき量は増えているうえ、求められる質もますます高まっているという厳しい状況が続いています。今後も、人にも仕事にも余裕があったという時代には、戻ることはないでしょう。
このような状態を打開できる一つの手法として、研修は非常に有効です。講師の話や各種演習などから新たな知識や気付きを得ることで、現状の問題を解決できる策が見えてきます。また、他の受講者の発言からヒントや刺激を受けたりすることで、日ごろの閉塞感や、モチベーションが低い状態から抜け出せるきっかけにもなります。加えて、忙しい状況でも、行動を起こす、またそれを持続させる仕組みや仕掛けを取り入れることにより、確実に成果が出ます。

研修は、個人と組織を変える手段として非常に効果的だと、改めて感じた経験でした。
(2014年3月 藤原 貴也)