2016/05/16

鈴木敏文氏の「朝令暮改の発想」を読んで

セブン&アイHDの鈴木敏文氏が電撃引退するというニュースは、日本中を駆け巡り、そのニュースに驚いたのは、私だけではないと思う。

コンビニエンスストアという業態を日本に広く普及させ、さらに銀行を作りATMを設置し、その利便性を高めていくなどという発想で、コンビニエンスストアの業態を革新していったことを考えるに希代の経営者といえるであろう。

その鈴木氏の著書も多く、最近「朝令暮改の発想」という本を読んだ。この本は、2008年に発行された本で、副題に「仕事の壁を突破する95の直言」とある。つまり、95の鈴木氏の直言とその解説という形で構成されている。

その中の直言の中に「売り手の「好都合」は買い手の「不都合」」というものがある。

これは、パンを例に書かれているのだが、大きい工場で大量生産したパンは生産効率がよく、売り手にとってはコストが下がり好都合だが、新鮮なパンを買うことのできない消費者にとっては不都合であると。
一方、小さなパン工場を各地にたくさん設置すると、大工場と比べて生産性は落ち、売り手としては不都合だが、出来立てのパンが近くの店でいつも手に入ることから、買い手にとっては好都合だと。
つまり、売り手にとって好都合のことは、買い手にとって不都合なことがままあり、買い手にとって好都合なことは、売り手にとって不都合なことが多いと鈴木氏は言う。そして大事なことは、売り手がいかに買い手の都合に合わせられるかと説く。

私も企業人として一般消費者に商品を販売する企業に勤めており、よく相反するこの問題に直面する。悩むことも多いが、多くの場合、妥協し売り手の論理に立っていないかと自己反省する。

この買い手に合わすこの話を読んだときに、頭に浮かんだのはiPhoneを開発したときのスティーブ・ジョブス氏のエピソードだ。私はテレビで見たのだが、iPhoneの大きさが希望する大きさにならず、開発陣が「これで限界だ」として持ってきた試作機を、ジョブス氏は花瓶の中に入れ、試作機から空気の泡が出てきたのを見て、「泡が出るだけ中に余裕があるのだから、そこを詰めて小さくしろ」と指示したのだそうだ。

商品開発は、「コスト」「納期」など、消費者ニーズとは異なる論理が企業には存在する。その中で、完成度の高い商品を開発したものだけが、成功をつかむ。世の中が細分化されヒット商品が出にくい世の中と言われて久しいが、いつの時代もヒット商品を作ることは難しいのだ。

買い手の好都合に合わせた商品を開発することを肝に銘じておきたい。

2016年5月 佐野