2016/08/15

インストラクショナルデザインについて

ADDIEという言葉を聞いたことがあるだろうか。

Analyze 「分析」
Design 「設計」
Develop 「開発」
Implement 「実施」
Evaluate 「評価」

の頭文字をとった、インストラクショナルデザインのプロセスの方法である。

 学習目標を達成するために必要な学習活動を分析→設計→開発→実施→評価することでPDCAサイクルを回して、学習効果を高めることを目指している。このADDIEモデルを意識することがコンテンツ開発に役立つものである。

しかし、実際、そこまで意識してコンテンツを考えることはないのではないだろうか。

インストラクション研究会でも、セミナーやワークショップ形式で発表する機会がある。何を話そうかと、まず考えるのだが、「誰に」、「何を」の、「誰に」の部分はあまり考えることはない。

聞き手が、自分が話そうとすることにどれくらい興味があるのか、興味があるならば、その分野にどの程度知識があるのか、興味がないならば、聞き手はそもそも、何に興味があり、それと自分が話したいことと関連付ける内容はあるのか。事前に、そうしたことまで考えることに気がまわらないものだ。一生懸命準備して発表に臨んでも、実際にセミナーを始めてみると、途中で寝ている人がいたりする。それは寝る方が悪いのだと思って、セミナーを続ける。しかし、事前の分析→設計の部分は十分だったか、素直に反省してみる必要がある。

話す側としては、コンテンツを作る際、知っている知識を一度自分の頭の中で体系立ててみて、それを順番に話そうとする。その方が、理屈が通っていて、分かりやすいだろうと考えるからだ。しかし、聞き手にとってはどうだろうか。聞き手は、自分で理解出来るように置き換えて理解しようとするものである。あくまで自分の興味と重なる部分で、自分の理解したいこととつなげて理解しようとする。そのため、自分が基礎知識があれば、体系だった説明は、バラバラだった知識が体系立てられるというメリットある。また、自分が興味がある分野と、話し手と自分の考え方の同じ部分や違いを確認したいという欲求が聞く興味をかきたてる。しかし、自分の基礎知識や興味がない分野だと、体系的に順を追って説明する方法は、心地よく眠りに誘ってくれるものだ。

私も、研究会の発表で、ここを考えずに発表して、見事に参加者の何人かの安眠を誘ってしまったことがある。私としては、体系的に整理して発表したのだが、聞く人にとって、聞きたかった内容や、自分の仕事ととの接点がなかったのだと思う。

このように、実施してみて、評価すると、改善点が見えてくる。

伝える側として、聞き手に持って帰ってもらいたいものは何だったのだろうか。それは、聞き手が欲しいものだったのだろうか。いらないものを押し付けても、いらないものはいらないのである。自分がいくら話したいことがあったとしても、自分が話したいことと、聞き手が聞きたいことの重なる部分にしか、会話は成立しない。それと同じように、研修やセミナーであっても、自分が話したいことは、聞き手の興味とどこが重なるのか、それを事前に考える必要がある。
事前に聞き手について、いろいろ想像を巡らして見ることは、自分の中で行う聞き手との対話である。そして、実際に話し始めて、最初にどれくらいの知識があるか、質問してみるのは、自分の想像した聞き手と目の前の聞き手とのギャップを確認する作業である。幾つかシナリオを用意しておけば、その時点で進め方の修正をすることができる。

聞き手によっては、本題を中心に進めていくことが有効な場合もあれば、あえて迂回して進めていくことが有効な場合もある。事前にどちらの方法も用意しておくことも必要だ。

興味を持って聞いているうちに、知らぬ間に、ゴールにたどり着いているというのが、最も良いインストラクショナルデザインだろう。

インストラクションデザインとは、事前に聞き手を想像するところから始まり、事前告知を含めた場の環境づくり、当日のタイムリーな対話による軌道修正、聞き手の振り返りのためや、話し手の事後の改善のためにフィードバックを受けられるような設計作りなど、伝え、共に学ぶために、総合的にデザインしていくことなのである。

2016年8月 吉田成雄