2011/11/30

テニスと私

 ときどき仲間とテニスをする。テニスはネットを挟んで1対1、あるいは2対2で勝ち負けを争うスポーツである。私の技量はまだまだたいしことはないのだが、最近気付いたことがある。
 
何かというと、人が聞けば当たり前ではないかと言われそうだが、得意技と優れた戦術とが両方そろわなければ勝てないということである。得意技だけでも、優れた戦術だけでも、どちらか一つしかないプレーヤーは恐らく勝ち続けることはできないだろう。

 
たとえば、急速の早いフォアハンドストロークを打つプレーヤーがいても、いつも相手の打ち安い位置にしか返球できなければ、ポイントを取ることはできない。逆に、相手の動きを読むことに長けていて、ラリーの何回分か先まで読み通すことができても、決め球を持っていなければポイントを取ることはできない。

 
私の場合、テニスのような勝負事ではなかなか勝てないので元来苦手である。苦手なのに続けてきた理由は、一瞬の個別技能に華があって、快感を覚えることができるからだ。中学生時代に軟式テニスをたしなんだが、地域の対抗戦であまり勝った記憶がない。また、高校以後、硬式テニスに転向したが、こちらもあまり勝ち進んだことがない。思い返すと、サービスとか、ストロークとか、個々の技を磨き上げることに力を注ぎ、美しいフォームや速い球を目指してきた。一方、どこへ打ち返すべきか、相手の弱点は何か、ラリーをどう組み立てるべきか、といった戦術にはこれまでほとんど興味がなかった。要は、場当たり的に技を繰り出して自己満足するテニスを20年近く続けてきたような気がする。戦術も大事なんじゃないか、そう思うようになったのはごく最近だ。恐らく、ビジネスマンとしてそれなりの年数、社会で揉まれた結果、気付きがあったのだろう。

 
一方、私とは正反対で、テニスコートに出ると、打つコースや高さ、相手との駆け引きばかりに執着している様子で、結局弱々しい球しか打ち出せない人も多い。得意技がないのに、策略ばかりで頭でっかちになっているタイプだ。こういう人は、初心者には勝てるが、強い相手には負ける。個々の技には、サービス(フラット・スライス・スピン、1st サービス、2ndサービス)、ストローク(フォア・バック、ストレート、クロス)、スマッシュ、ボレー、ドロップショット、などがある。相手の動きを良く見ていて、相手が取りにくいような、良いコース、良い高さの球を打つことができても、球に切れがなければ、すぐに相手に返球されてしまうので、技をどれか磨かないと話しにならない。

 
私が硬式テニスを始めた頃、ジョン・マッケンロー、イワン・レンドル、ボリス・ベッカー、マイケル・チャンといった選手が有名だった。それぞれ、どこに打ってくるかわからないサービス、ベースラインからの強いフォアハンドストローク、破壊的な強烈なサービス、どこに打たれても走り回って打ち返す足、といった個別の得意技を持っていたような気がするが(記憶違いでごちゃ混ぜになっていたらご容赦頂きたい)、いずれのプレーヤーも同時に優れた戦術家でもあった。囲碁や将棋ほどではないにしても、何手か先まで自分の手(球)と相手の手(球)の組み合わせを読んで、ラリーを組み立てていたに違いない。華やかなプレーは見栄えがするので見る者の記憶に焼き付くが、戦術はなかなか見た者の脳裏に残らないだけだろう。

 
繰り返しになるが、何か得意技を持っていることと、優れた作戦を練ることは、ゲームに勝つ上で双方とも欠かせない。同じ相手といつも勝負しているなら、どちらか一つしか備えていなくても、相手の性格から打ち方から全部わかってしまうので、互角に戦うことも可能かもしれない。あとはその日の体調の違いだけ。それでも、その日の体調管理とか精神力にものを言わせて勝ち負けを楽しめるだろうが、それだけではあまりおもしろくない。また、初対面の相手であれば、双方を具備していなければ、勝負は心もとない。

 
私の場合は、1stサービスと、ストレートに打ち込むバックハンドストロークに自信があり、相手を唸らせることも多い。しかし、試合にはなかなか勝てない。所詮は、戦術が抜け落ちているからである。今は2ndサービスの練習を続けている。普通2ndサービスでは急速を落としてダブルフォルトの確率を限りなくゼロに近付けるように図るが、それだけでは戦術を組み立てられないので、何とか相手が嫌がる球種のサービスを完成させようと試行錯誤している。その上で、最後は自分が相手のオープンスペースに強烈なストロークを打ち込んでポイントを得る場面から逆算して、ラリーを読むことを心がけるように、漸く、意識が向いてきた。

 
偉そうな薀蓄をたれてしまったが、これ以上知ったかぶりの能書きをたれているのを見つかるとテニス仲間に馬鹿にされるので、この辺で止めておこう。ビジネスマンとしての心構えにもどこかしら通じる部分があるような気がしているが、どうお感じになるかは読者のご判断に委ねたい。皆さん、ご自身の得意技はなんだろうか。そして、同時に戦術も練っているだろうか。
(2011年12月 酒井 宏忠)