2016/04/30

「人間力」を磨く

最近、考えさせられることの一つに「人間力」というのがあります。同じことを目的に行動をとった場合、人間力のある人とない人では、結果や反応が大きく異なる、ことを感じることがあります。一般的なわかりやすい例では、「成果を出せる営業マン」と「出せない営業マン」。営業経験も知識もスキルもあまり違わないのに、営業成績にかなりの違いがある、といったものです。コンサルタントの世界でも、提案書を出しても、そのあと受注に結びつけられる人とそうでない人。リピートの声がかかる人とそうでない人。これらには、「なにか、よくわからないが違いがある」、それがなんなのかと考えたときに、「人間力の違いかな」と感じるのです。

人間力とはなんなのでしょうか。調べてみるといろいろな定義が出てきます。「社会を構成し運営するとともに、自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力」「優れたリーダー達が持っている高い人間性からなる能力」「仕事ができる人、健全な社会生活を送っている人が身につけているすぐれた社会的能力のこと」「相手の心を動かす能力」・・・。それぞれ、なるほどそうだと思うところがあります。その中でも、わかりやすく、自分の今の感覚に近いものは、「相手の心を動かす能力」でしょうか。人の心を動かすには、人間的な魅力が必要です。「おもしろい人」、「興味がわく人」、「何かを期待させる人」、「一緒にいて楽しい人」・・・、こんな人を想像します。

なぜ、こんなことを考えるのか。楽しく仕事をして充実した日々を送りたい、多くの方と会える機会が増えているのでそれをもっと楽しみたい、共同で大きなことを成し遂げたい/何かを創り上げたい、そういった想いがあるからです。なかなか自分の理想とするようにはいかないものです。人間力は、一生かかって磨きあげていくものなのかもしれませんが、自分がここまでできればいいなと考えているレベルを、自分と同年代、あるいは低年齢で達成できている人もいます。その人は、自己評価ではまだまだと考えているのかもしれませんし、見た目ほど満足していない可能性もありますが、こちらからみれば、うらやましいレベルです。これらの人はどのような考えを持って行動し、考えていることをどう実現しているのか、と知りたくなるものです。

そこで、人間力をどう磨くのか。ここのところが、重要になってくるわけです。なんといっても、「その人の生まれ持った性格や資質」を基礎とし、これまで「培った能力や経験」を加味して幅をひろげ、「知見」や「人間としてのすべてを総動員」することで発揮される「対人影響力」ということになります。2つの観点がありそうです。

1つ目は、その人からかもしだされるオーラのようなものを作り上げること。この言葉で片づけるのは早計ではありますが「魅力の形成」です。生まれ持って備わっているのではなくて、後天的に形成できなければなりません。どうするのか。「質の高い経験を積む」ことでしょうか。経験から困難を乗り越え、克服したなにかを持っている人は、どこか魅力があり話題性もあるものです。質の高い経験を積むには、普通の状態では得られない何かを得る必要があります。大震災に見舞われるなどの外的な要因からの経験でない限りは、大きな志や夢を持っていて、それに向かって行動する実行力、情熱・意欲、成功を信じる心を持つことでしょうか。薄っぺらではなく、厚みのある人に。しっかりやろうとしていたでしょうか。

2つ目は、知識や思考力を形成し人間としての深さをつくる努力をすること。経験はできないが疑似的な経験をすること。「教養を身につける」です。どうするのか。過去に学ぶことでしょうか。歴史、文化、哲学、倫理学、こうしたものに興味をもち、そこに経験を求めます。本を読んだだけでは身につかないでしょう。なぜなら、本を読んでも理解できるのは、全てではありませんし、即座に忘れていきます。これを避けるには、深く掘り下げた議論や思考を深める、学んだことを書いたり語ったりすることで表現する、ことでしょうか。「人類の歴史を総括する」「社会全体の幸福をどう実現するか」「文明の転換と日本の役割」これらのテーマには、決められた答えはありません。しかし、それを考えたり学んだりすることで、深みのある話や対話ができるようになる、すなわち、教養、人としての魅力につながる気がしています。これまでしてこなかったことです。

今回テーマにした「人間力」は、インストラクションスキルにおいても主要をなすものでしょう。よくスキルは、「能力ではなくて技術だ」と言われることがあります。そう言ってもらったほうが、気が楽なところはあります。技術は、練習すれは身につきそうです。ところが、人間力のような定義しきれない数々の能力の集合体は、それとは違ったもののように思えます。昨年から「インストラクション・スキルアップ研究会(ISU研究会)」に入会したわけなのですが、技術もさることながら、人間力を磨く場のひとつとして考えることもよいのではないかと思っています。このコラムで終わってしまうには、あまりに複雑で奥の深いテーマかもしれません。

2016年4月 甲田輝彦