2010/05/06

「プロボノ」のすすめ

今年に入って、研究会の分科会を契機に幾つかの企業コンサルティグに携わっている。「コンサルティング」というと仰々しいような気もするが、「企業診断」という言葉では企業を客観的に分析するだけで、経営自体には入り込まず、何となく他人事のように感じてしまうので、ここではあえて「コンサルティング」という言葉を使用する。
実際にやっていることは、中小企業診断士として習得した知識・スキル・経験、勤務先の業務で習得した知識・スキル・経験を活用して第三者の視点から企業が抱える現状の課題を抽出した上で、その企業の経営者・従業員とともに今後どのような方向へ進んだほうがよいかを一緒に考えることである。
中小企業診断士であれば、このような話も特段違和感がなく聞けると思うが、この活動を周りの人に説明するのはなかなか難しい。特に、私のような企業内診断士はこの活動をするにあたり、当然、平日の夜や休日などのプライベートの時間を利用し、無償で行っている。この点を説明するのが難しいのである。

友人「来週の土曜日空いている?遊ばない?」
私 「ちょっと用事があるんだ…。」
友人「用事って何があるの?」
私 「うん…企業の経営相談っていうかコンサルティングみたいなものかな。」
友人「へ~、えらいね。」「でも、なんで休みの日にまでそんなことをやるの?」「ボランティア?」
私 「まぁ、そんなものかな…。」

友人に聞かれると大抵こういう会話となる。「ボランティア」という言葉には相当違和感があるのだが、興味のない人に説明するのが面倒臭いので、仕方なく「ボランティア」で済ましてしまうケースが多い。
そんな中、先日あるニュース番組を見た。番組の主役は広告代理店の営業マンで、インターネットで知り合った見ず知らずの人達とともにNPO法人のホームページを作成するというものだった。集まったメンバーは、サラリーマン、デザイナー、プログラマー、公務員とさまざまなキャリアを持つ人達で、やはり平日の夜や休日などのプライベートの時間を利用して無償で活動を行っていた。彼らの活動動機は様々だったが、共通して言えるのは、自分の持っている知識・スキル・経験を「活かしたい」「磨きたい」「幅を広げたい」ということが根底にあった。また、依頼するNPO法人も無償だからといって遠慮はせずに自分達のニーズをきちんと主張しており、ビジネスさながらの緊張した雰囲気の中で活動を実施していた。
「プロボノ(Pro bono)」とは、元来、ラテン語で「公共善のために」を意味し、アメリカでは一般に弁護士など法律に携わる職業の人々が無報酬で行う、ボランティアの公益事業あるいは公益法律活動のことを言う。弁護士による無料法律相談、無料弁護活動などがそれに当たり、因みにアメリカの弁護士はアメリカ法曹協会より年間50時間以上のプロボノ活動を行うことを推奨されている。
現在では、これが転じて、法律分野に限らず各分野の専門家が、職業上持っている知識・スキル・経験を活かして社会貢献するボランティア活動全般を指しているそうだ。このニュース番組でも、「ボランティアは時間を無償で提供する」「寄付はお金を無償で提供する」「プロボノは専門知識・技術を無償で提供する」という説明をしていた。
この番組を見た時、自分が行っている活動は「正にこれだ!」と思った。私自身、企業コンサルティングをすることは楽しいし、好きである。しかし、それは釣りをしたり、スキーをしたり、旅行をしたりする「趣味」とは異なる「楽しさ」「好きさ」である。また、ボランティア、無償奉仕、支援というのもちょっと違う。
自分が身に付けた知識・スキル・経験を必要としている他のフィールドで役立てたい、他のフィールドでどこまで通用するか試してみたいという気持ちが強いのである。日常の業務では制約がありすぎて自分の知識・スキル・経験を存分に発揮できる環境がなかなか得られないし、仮想世界では決められた条件の中でしか行わないため、不確実性・驚きに乏しく実感が湧かない。必要としている最前線で自分の知識・スキル・経験を活用することが、相手の役に立つことはもちろん、自身の知識・スキル・経験の幅も更に広げ、ひいては自分自身を一層引き上げてくれるのではないかと私は思う。
また、この番組を見て、世の中に同じ気持ちを持っている人が数多くいることを知って、ちょっとほっとした面も実はある。
私の周囲では、研究会を除くと、このような活動に馴染みのある人は多くない。中小企業診断士でもこのような意識を持っていたとしても実践に移している人はそう多くはないと思う。私自身、このような契機があったから携われているとも思っている。しかし、中小企業診断士、特に企業内診断士のフィールドはこういう場所にあるのではないかと思う。単なる知識・スキルの習得だけでなく、少しでもチャンスがあれば知識・スキルを通じて社会に役立つ活動である「プロボノ」を常に念頭に置いた活動に是非参加してみてはどうだろか。
(2010年5月 渥美 仁孝)