2010/07/01

気になるヒト

私には気になるヒトがいる。といっても女性ではない。そのヒトは野口健という。ご存知の方もいるかと思うが、簡単に紹介する。
「アルピニスト。1973年、アメリカ・ボストン生まれ。高校時代は不良、落ちこぼれだったが、停学中に植村直己の本と出合ったのをきっかけに、7大陸最高峰の制覇を目指す。1999年、エベレストの初登頂に成功。7大陸最高峰世界最年少記録を25歳で樹立。2000年、亜細亜大学卒業後、エベレストや富士山での清掃活動を開始。現在は、清掃登山、環境教育、氷河融解防止対策等の環境活動に加え、第二次世界大戦時の日本兵の遺骨収集活動にも取り組んでいる。」つまり、彼は、登山家である。
彼とは比ぶるべくもないが、実は私も登山が好きだ。最近はとんとご無沙汰しているが、今まで富士山には3回登頂した。一度目は小学5年生の時、2度目は大学生の時、そして3度目は社会人になってからだ。その他に、日本百名山に限っても地元茨城県の筑波山、新潟県の妙高山、同じく新潟県の火打山、富山県の立山、福井県の荒島岳、滋賀県の伊吹山に登頂している。登山ではないが、スキーで訪れた山も多い。苗場山、白山、白馬岳、五竜岳、蔵王山、羊蹄山…。何故山に登るのかと尋ねられ、「そこに山があるからだ」と答えたのはイギリスの登山家ジョージ・ハーバート・リー・マロリーだが、私が山に惹かれる理由は「非日常性」にある。山では、平地とは全ての条件が変わる。景色は勿論のこととして、天候、気温、気圧、湿度、太陽光、風力、酸素濃度が変わる。標高が上がるほど、人間が生存するうえでの条件は厳しくなる。そのような状況に、たまに自分を置きたくなるのである。特に2000mを超えると、普段自分を取り巻いている色々なものが取り払われ、晒されている気持ちになる。試されている気持ちになる。
野口健は、あるインタビューで次のように語っている。「山にいるときは、その日をどう生き延びるかが全てなんです。生きるか死ぬかのギリギリの世界。登山家というのはテントの中で寝袋にもぐり込んで震えながらじっとしている時間が一番長い。自分でザックを背負って歩いてテントを張ってブルブル震えながら寝る。ただそれだけです。」私レベルの登山では、命の危険を感じることは無いが(一度だけ、春の妙高山をスキーを担いで尾根を登っていたときに、谷側で雪崩が発生したときは、少し感じたかな…)、彼はそのような修羅場を25歳で全て通ってきた。そして今、様々なボランティア活動に取り組んでいる。だからこそ、彼の言葉そして行動には重みがある。真実味がある。カッコいいと思わせるモノがある。気になるのである。

人間は、どのような分野においても、自分の限界を超えなければ成長はないと思う。但し、限界を超えるというのは、何も登山のように命を危険に晒さなければならないというものではない。毎日コツコツと地道に続けていくことでだって限界を超えることは出来る。このコラムを書きながら、最近、自分はどうかな?と考えている。

(2010年7月 藤森 正一)