2010/08/22

円高の進展について思うこと

2010年8月11日外国為替市場において1ドル=84円台まで円高・ドル安が進み、15年ぶりの高値をつけた。最近の大幅な円高の進展を受け、日経平均株価は年初来安値水準である9,000円を窺う展開となっており、8月20日現在の年初来の日経平均株価は▲13%と、米国ダウの▲1%、ドイツのDAXの+0.8%と比較し大幅にアンダーパフォームしている。円高進展の原因としては、米国経済の鈍化・成長減速懸念とFRBによる景気下支えを目的とした追加的な金融緩和を受けた米国金利金利の低下による日米金利差縮小と共に、日本の関係当局における円高対応の鈍さも指摘されている。

輸出企業の想定為替レートは2010年7月に発表された日銀短観によると1ドル=90.18円となっており、現在の為替レートは輸出企業にとって業績の悪化要因となっている。8月20日を基準とすれば、わずか1年間でドル円は約9%、ユーロ円は約19%と短期間に急速に円高が進展している。かかる中、業績への懸念を強める輸出企業はコスト削減・為替変動の抑制のために海外調達比率を高める動きを一段と強めている。一部、国内大手自動車メーカーでは新型小型車をアジアで生産し、日本に輸入しているとも聞く。これらの輸出企業の行動は、企業利益・企業価値の拡大という観点からは合理的ではあるものの、日本の国という視点から見ると、海外調達比率の向上等は国内企業の仕事の喪失に繋がり、雇用の喪失・技術基盤の喪失を招き、中長期的に国力の低下を招くリスクが高く、懸念される行動であると考えられる。

一方的に円高が進行する中、関係当局の対応は鈍く、12日になりようやく政府・日銀より円高けん制する発言が出され、16日以降経済対策についてのヒアリングが開始された模様である。国内では円高の恩恵を被る輸入企業も多く存在していることや、欧米諸国がリーマンショック以降の経済回復策の一つとして通貨安政策を選択していること、円の水準そのものの議論等、政策対応を行うに際しては様々な面を考慮する必要があるとは思われるものの、短期間かつ過度な円高は国内経済の失速や国力の低下に直結するリスクが高いことを踏まえ、政府には短期的な市場変動に対する対応策を迅速に行うと共に、国力・国益の増大に向けた中長期的な視点での政策の実施が早期に求められよう。また、円高を悲観するだけでなく、円高を利用し国際的なプレゼンスを高める施策を行い国力・国益を拡大させる目線も重要であろう。

政権を選ぶのは一人一人の投票である。今回の円高局面での各政党・各政治家の発言・行動をしっかりと記録・記憶し、次回選挙では目先的なマニュフェストや発言に振り回されること無く、実績を踏まえた投票を行いたいと強く感じている。
(2010年8月 鷲尾 豊弘)