2010/11/16

思い込みにご注意

恥ずかしながら、私は長い間、腰痛に悩まされて来た。元々背が高く、腰を痛めやすい体型ではあったが、そもそも腰に痛みが出た発端は高校生時代の部活からだった。それから20年以上、腰痛と付き合い続けて来た。
若いうちは、それなりに日常生活は行えていたが、30歳を過ぎた頃には日常生活に支障が出るほどの痛みとなっていた。間違いなく、一日中デスクワークを行い、かつ業務多忙による運動不足がその悪化の原因である。
痛みを和らげるために、指圧へ通ったりする他に、スポーツジムに行き、少しでも失った体力を回復することに努めて来た。スポーツジムでは、ストレッチを行い、バーベルや機械を使用したウェイトトレーニングやランニングを週に1~2回行ってきた。スポーツを始めて体力が付いてくると何となく腰の痛みも和らいでくるのだが、数カ月すると腰に疲労が溜まったような痛みが出てくる。そして、痛みが引いた頃に前回の反省を活かし、自分の体の弱点と思われるところを補強するようにトレーニング方法を変更し、再開する。そしてしばらくして体力が付くと腰の痛みが無くなるが、また数カ月すると、腰を痛めてしまう…そんなことを繰り返していた。
そしてついに、今年の夏ごろ事件は起きた。
朝、起きようとすると左足に力が入らなくなったのである。寝返りを打とうとすると腰に激痛が走る…。
「まずい、起き上がれない…」頭の中が真っ白になった。
「このまま起き上がれなかったらどうしよう…。」
その場で上司に電話をして現状を説明し、その日は仕事を休ませてもらった。数時間後、何とか起き上がり、タクシーを呼んで近くの整形外科へ行き、診察をしてもらった。幸い、骨や神経に異常はなく、筋肉を痛めていることがわかり、とりあえず一安心ではあった。
一通り診察が終わった後、先生から「当院に来ているパーソナルトレーナーを紹介するから、一度、体と運動方法を診てもらってはどうか?」と勧められ、トレーナーに診てもらうことにした。
トレーナーは、私を一目見た途端、「渥美さん、体が完全に『く』の字に傾いていますよ。」と言うと、すぐに仰向けに寝かせ、頭からつま先まで丹念にストレッチを行った。すると、不思議と腰の痛みが「スッ」と和らいでいった。
「渥美さんの体は右に傾いて重心が右にかかっているから左側に全く筋肉がないんですよ。だから、疲れてきて左に体重が乗ると、すぐに腰を痛めてしまうんです。」
「まずは、今まで行ってきたトレーニングをすぐに止めて、私の言うメニューだけを行ってください。」
そう言うと、寝たまま足を上下に上げ下ろしすることと、寝たまま膝を立てて左右に動かすことだけをトレーニングで行うことを私に指示した。
「え?こんなので体力つくの?」私は半信半疑だったが、この痛みから逃れるには、トレーナーを信じるしかないと思い、1週間そのメニューだけを行ってみた。そうすると、徐々に腰の痛みが気にならなくなってきた。その後3ヶ月間で徐々にメニューを増やしていった。メニューはいずれも私の体に合ったものを取り入れて、また、説明も筋が通っていてどれも納得がいくものであった。これらをこなすことで、今では体のゆがみも少なくなり、姿勢も良くなった。何より、今までの腰痛の苦しみが嘘のようになくなった。更に、腰が痛くなりそうな兆候が分かるようになり、事前に姿勢を修正するこができるようになったのである。
腰痛の苦しみから解放された世界は、まるで別世界にでも生まれかわったかと思えるほど毎日の生活も気持ちも軽くなった。

「もっとこのトレーナーに早く出会っていれば20年以上も苦しまずに済んだのに…」「どうして、もっと早く専門家に相談しなかったのだろう…」
本当に、長い間回り道をしてしまったと思う。自分なりに調べ、自分で工夫をしてきたつもりではあるのだが、所詮は素人。思い込みの範疇は超えられず、「我流」のまま間違った方向を修正出来なかったのである。
世の中には自分の勘や経験が重要な場面は確かに多くある。しかし、その道の専門家への相談が間違った方向へ迷走するリスクを減らしてくれるのは確かである。そんなことをしみじみと感じた体験だった。
(2010年11月 渥美 仁孝)