2011/01/03

タブレット型コンピュータ(タブレットPC)の爆発的普及の兆し

2010年は、スマートフォンの本格的な普及の年であった。その一方で、タブレット型コンピュータ(タブレットPC)も本格的に売り出された。先鞭をつけたのはもちろん、アップル社のiPadである。2011年の前半までには、主なメーカーの端末が出揃うだろう。


実は、私は、タブレットPCについて大変注目している。会社帰りに電気屋に立ち寄り、それぞれの端末の使い勝手を比べている。インターネット上にある批評サイトも覗いている。関連する記事も欠かさずに読んでいる。タブレットPCについては、十分に知見を得たつもりだ。タブレットPCは一見すると、ノートPCとスマートフォンを足して2で割ったように思われるかもしれない。機能面に注目すると、確かにそうとも言える。しかし、使用目的という切り口で捉えると、全く新しい世界が見えてくる。私がなぜこれほどに高い関心を示しているか。それはこのタブレット型の端末が、我々の生活スタイルを一変させる可能性を秘めているからだ。



目前に迫っている変化は、電子書籍端末としての用途だ。電子書籍、もしくは電子書籍端末は、過去何度も売りに出され、その都度頓挫してきた。しかし、今回こそは定着するだろう。アップル、やアマゾン、グーグルとといった海の向こうの巨大企業は、アメリカですでに電子書籍を普及させ、日本への上陸準備中だ。日本の消費者もそれを楽しみに待っている。そもそも”自炊”に代表されるように、彼らたちは勝手に書籍の電子化をしているくらいだ。出版社もすでに覚悟を決めているだろう。印刷会社や取次、零細書店については非常に残念ではあるが、消えてなくなってもらうしかない。電子書籍の恩恵を受けるのは、著者と消費者になるだろう。



なぜタブレットPCが電子書籍端末と結びつくのか?スマートフォンが電子書籍端末として不十分なのは、明快だ。スマートフォンでは、画面が小さすぎる。しかし、ノートPCではダメなのだろうか。ノートPCでも十分に画面が大きいものもある。そもそもデスクトップPCも十分に大きい。しかし、既存のPCは電子書籍端末に向かない。理由は二つある。ひとつは、携帯性が不十分であること。電子書籍端末は、せめて片手で持てる必要がある。もうひとつの理由は、既存のPCではリラックスできない。ノート型もデスクトップ型も、既存のPCを操作をするときは、基本的に前のめりである。それではリラックスできない。それに対して、タブレットPCを操作するときは、後ろのめりである。タブレットPCを操作するときのこの姿勢というのは、実は電子書籍デバイスとして重要な要素である。実際のところ、iPadを使用しているときは、インターネットサイト1ページに滞留する時間は、通常の既存のPCと比較して、2倍近くにもなっている。タブレットPCのほうが雑誌や新書を読む感覚により似ているのだ。


電子書籍は、タブレットPCのキラーコンテンツになるということだが、恐らくそれにとどまらない。タブレットPCは、音楽や写真、映像といった総合的なエンターテイメントメディアプレイヤーになっていく可能性を秘めている。そうなったときこそ、我々の生活は大きく変わることになるのだ。


タブレットPCがいいとなったら、次はどの端末がいいかという話になる。また電子書籍もどの規格を使うのがよいのだろうか。これについては、わからない、というのが正直な回答だ。実際のところ、端末だけで10社以上が発売の予定である。電子書籍の規格についても、著者、出版社、印刷会社、書店、通信会社などがあちこちで団体を設立し、何がどうなっているのかまるで見えてこない。これは仕方のない話である。当の本人たちがわからないのであるから、一般の消費者たちにわかるはずがない。電子書籍の規格はどうで、どう流通させるかということについて、今は混沌としている。しかし、数年後には恐らく非常にすっきりした形になっているに違いない。つまり電子書籍の端末も規格も流通経路もすべて決着しているということだ。


ここまでタブレットPCと電子書籍について客観的な視点で述べてきたが、実は私はすでに電子書籍用の端末を買っている。正確に言うと注文はしているが、まだ手元に届いていない。買ったのはアマゾンのKindle 3G+Wifiだ。まだ日本の電子書籍自体は発売されていないが、待ちきれずに買ってしまった。アマゾンKindleを買った理由は三つある。


一つ目は、携帯性・操作性が圧倒的にすぐれていること。重さは携帯電話2個分程度。片手で持っても疲れない。ページめくりも片手でできる(ほとんどのタブレットPCのページめくりは、片手でできない)。バッテリの駆動時間は1週間から1月程度。充電の心配がほとんどない。


二つ目の理由は、アマゾンの電子書籍は、デバイスに依存しないことをコンセプトとしていること。アマゾンの電子書籍を閲覧するためのソフトウェアをWindows PC用、Android用、iPhone/iPad用と、次々にリリースしている。これであれば、将来デバイスを変えることがあっても安心だ、アマゾンで購入した電子書籍は他のデバイスでも引き続き読めるのだ。


三つ目の理由は、”自炊”した電子書籍で十分に楽しめること。実は、私は自分の本棚にある本のほとんどを解体し、PDF化している。その分だけで100冊以上ある。読み返したいと考えていた本も、持ち運ぶ苦労なしに場所を選ばずに読むことができる。アマゾンKindleは、日本の電子書籍がまだ販売されていないが、今ある日本の電子書籍の販売サイトはあまりにも貧弱である。日本の電子書籍の普及は、当初考えていたよりも遅くなりそうだ。書籍が、電子書籍として販売できるようにするには、1冊ずつ著作権を整理しなおす必要があるからだろう。さらに雑誌や新聞で対応しているデバイスも、一部を除いてほとんどない。それであれば、アメリカですでに実績があるアマゾンKindleのほうが失敗はないだろうと考えた。


アマゾンのKindleを選んだことで、副次的なメリットもある。値段が安いということと、目が疲れにくい電子インクを使用していることだ。


ちなみに、タブレットPCという概念は、実は10年近く前からよく知られたコンセプトである。マイクロソフトからもタブレットPC向けのOSが用意されていた。タブレットPCが実際に開発され、店頭で販売もされた。しかし、全くの鳴かず飛ばずであった。なぜであろうか?個人的な見解としては、以下のようなことが理由だったのではないかと思う。


1. 値段が高かった
2. 電池が長持ちしなかった
3. コンテンツが揃っていなかった


タブレットPCの普及が始まるには、これらの問題がすべて解決される必要がある。上の項目の中で3点目以外はすでに解決されている。端末の値段は、高くても10万円程度しかしない。電池も以前より長持ちする。iPadは使用していても5,6時間は充電しなくても大丈夫だ。これくらい長ければ、外出先で使用できる。3点目のコンテンツについても、iPadやAndroid OSでタブレット用アプリがすでに利用できる。無線LANや携帯回線を使えば、インターネットに常時接続もできる。あとはキラーコンテンツである電子書籍が揃えば、タブレットPCは間違いなく普及することになるであろう。

(2011年1月 橋本 歌麻呂)