2012/09/09

放射線の風評被害と非科学的迷信支配


2011.3.11東日本大震災によって引き起こされた原発事故に起因する、福島県を中心とした放射線の風評被害が一向に収まる気配がない。その影響は、福島産の野菜のみならず、一部の自治体においては、岩手県等からの焼却用ガレキの受け入れ反対運動にまで及んでおり、放射線に対する極度な拒否反応が日本中に蔓延した状態が続いている。
歴史的に、日本人の放射線に対する拒否アレルギーは強い。原爆による世界で最初の唯一の被爆国であること、水爆実験に遭遇してしまった第五福竜丸被爆等、マスコミ報道による影響が強いためと思われるが、実際には、広島・長崎においては爆弾そのものによる直接の死者は甚大であったが、第五福竜丸被爆者を含めいわゆる「低線量放射線被爆のみを原因とする死者」は発生していないということ、否、低線量放射線被爆により逆に健康が増進され寿命が高まっている(白血病やがんの統計的発生確率が低くなっている)という事実はあまり知られていない。
ホルミシス効果というのをご存じだろうか? ある一定量を超えて摂取すると生体に有害なものでも、その値(閾値)を超えなければ逆に生体に好ましい影響(ホルモンのような作用)がある現象」のことをいう。例えばエチルアルコールは過度の摂取は生体に有害であるが、少量を飲む分には「百薬の長」と言われるように却って生体には有益とされている。また、猛毒として知られているヒ素は、もちろん、故意の摂取は生体に深刻な影響を及ぼすが、一方において、生体内にはヒ素化合物が微量存在しており、生体には不可欠な元素であることが知られている。このホルミシス効果に対立する考え方として、LNT仮説(Linear Non-Threshold)がある。有害の程度は摂取量に比例し、微量であっても生体に有害であり続けるという仮説であり、ホルミシス効果における閾値の存在を認めない考え方をいう。放射線被爆においては、およそ80年前の「ショウジョウバエの突然変異に対するX線の影響」理論が元となり、生体への低線量放射線被爆に対するデータがほとんどなかったにも拘わらず、LNT仮説が信奉され続けてきた。
しかしながら、1980年に米国ラッキー教授により、それまでに各国で公表された膨大な各種生体データを基に、従来のLNT仮説を覆す「放射線ホルミシス効果」(低線量放射線被爆は生体のさまざまな活動を活性化させ有益である)が提唱された。この中で根拠となっているデータは、広島・長崎での数万人におよぶ低線量被爆者の追跡データ、原発での作業者、原発事故における低線量被爆者、自然放射線の強い地域の住民等のものとされる。その後各国にて各種の研究調査が活発化して現在に至っているが、実験による生体データの収集が困難であることもあり、国際的な各種関連機関においては未だ統一的な結論が出されていない状態にある。放射線ホルミシス効果の例は身近でも感じることができる。全国各地に散らばるラジウム温泉やラドン温泉がそれであり、低線量被爆することで、古くより各種健康改善への高い効果が実績として示されてきた。しかしながら、生体への低線量放射線被爆については、生体データを根拠としたとは思われないLNT仮説とその後膨大な生体データの分析から導出された放射線ホルミシス効果の二通りの考え方があるにも拘わらず、一般のマスコミ報道ではそのほとんどがLNT仮説を前提としたものであり、放射線ホルミシス効果の存在すら知らされることはないのが現状である。かく言う私も学生時代は工学部原子核工学科で学び、第一種放射線取扱主任者の資格も取得しているが、学生当時に学んだLNT仮説が頭から離れず、ラジウム温泉やラドン温泉の存在に気づきながらも効果自体を無視し続け、昨年の3.11の事故後まで放射線ホルミシス効果の存在も知らないできた。ネットサーフィンをしていて初めて放射線ホルミシス効果を知った次第である。しかしながら、よくよく考えてみれば、地球上に生命が初めて誕生した当時は、大気も薄く現在よりも遥かに強烈な自然放射線(宇宙線)の環境下にあった。その中で生命が誕生した事実自体が、生命の誕生とその維持にはある程度の放射線被爆を必要としていたのかもしれない。
以上、『放射線被爆を単純に生体にとって悪と考える(LNT仮説)のは、決して十分なデータに基づいたものではなく非科学的であり、現代においては「迷信」だ。』と言いたい。日常飛び交う情報には偏りを疑い、先ずは事実を広く知ろうとする努力が重要である。3.11の事故後に出版された前出ラッキー教授の「放射線を怖がるな!」の冒頭に以下のメッセージが掲げられている。じっくり噛みしめてみたいものである。
「世界のメディアの大半が放射線は全て有害であると思い込んでいる。もし、日本政府が2011年3月の地震と津波がもたらした福島原発事故への対応にあたってこうした思い込みに支配されるなら、既に苦境にあえぐ日本経済が途方もない無用な失費に打ちのめされることになろう。ゴルバチョフが遅きに失して思い知った次の教訓を日本も学ばなければいけない。『20年前にチェルノブイリで起った原子炉のメルトダウンが、恐らく5年後のソ連崩壊の真の原因であった』」
(2012年9月 後藤泰山)