2013/03/04

理と情


理とは、論理の理、ロジック。
情とは、感情の情、エモーション。
常々、この理と情のバランスが大切だと感じているのだが、
まずは、「理」寄りの人間なのか、それとも「情」寄りの人間なのか、
という観点からみていきたい。

「理」のタイプというのは、どちらかというと、心ではなく、
頭で物事を判断するタイプが相当する。
さらに言えば、右脳と左脳に分けると、左脳思考だ。
話は理路整然、主張には明確な根拠や数値データなどが伴っている。
興味や関心が向かう先は、事実や問題、または成果が上がるかどうか、
といったことにあることが多い。
ビジネスシーンでは、論理思考を土台に分析的な考え方ができるので、
問題解決や意思決定などに強みを発揮する。
ただし、相手の気持ちよりもメリット・デメリットや損得が
優先したり、ときどき、理屈っぽいと言われてしまうこともある。

それに対して「情」のタイプは、いわゆる、頭ではなく、
心で物事を判断する傾向が高い。
脳で言うなら、左脳ではなく、右脳で考えるタイプだ。
このタイプの興味や関心は、他者や自身の感情、または
相手に共感できるかといったことに向かうことが多い。
他者の気持ちに敏感で、気遣いや心配りができる。
ビジネスシーンでは、お互いの感情への意識が土台にあるので、
信頼関係構築やチームビルディング、動機付けなどが強みである。
ただし、論理的な判断ではなく好き嫌いが優先してしまったり、
直感に頼り、根拠が伴わずに感覚的になってしまう傾向もある。

私自身は、恐らくはDNAに組み込まれているのだと思うが、
完全に「情」のタイプの人間だ。
それも、社会人になるまでは、もしかしたら「情」の割合は
100%に限りなく近かったのではないだろうか。
大学を卒業して入社した外資系企業で営業職に就いたときから、
この理と情に影響を受けていたと感じる。

まずは、対お客様との関係である。
売上目標を達成する上では、お客様との信頼関係の土台の上に、
相手の問題を解決することなどが求められるが、当時の私は、
完全に人間関係のみで売上を上げていた営業スタイルだった。
簡単に言うと、お客様と仲良くなり、気に入られて、こちらの
お願いを聞いていただく、といったタイプの営業だったのだ。

また、社内に目を向けても、自分で言うのははばかられるが、
同期のみならず、上司や先輩たちとの人間関係も非常に良好で、
他の支店の先輩たちからもかわいがられていたように思える。

しかし、次第に「情」100%ではうまくいかなくなっていった。
お客様との関係においては、いくら毎日通っても信頼関係が
築けない相手がいた。
例えば、大雪の日に敢えて訪問しても、「で、用件は?」と
いった感じで、心の距離感が全然縮まっていかないのだ。
社内においても、新人の指導役を務めていたのだが、ひとり、
どうしても良好な関係性を築けない後輩がいた。
当時は、変わったお客様だなぁとか、困ったヤツ(新人)だと
相手のせいにしていたと記憶している。
しかし、これはあとからわかったことだが、相手が自分とは
間逆の「理」100%に近いタイプだったのだ。
お客様としたら、営業パーソンが毎日熱心に通ってくるとか、
誠意とか熱意を見せるといったことは、自社の問題解決には
ほとんど関係がないのだ。
それよりも、現在の状況を踏まえて、どのような解決策を
提示してくれるのか、また、それにより自社のメリットや
デメリットはどうなのかといったことを、証拠や数値などを
使って理路整然と説明してくれることを求めていたのだ。
後輩も同じことで、当時の私は、彼が日中に社内で資料を
作っていることがどうしても許せず、昼間は一社でも多くの
お客様を訪問するようにという指導をしていた記憶がある。
しかし、彼は持ち前の論理思考を活かして、お客様の現状を
深く分析し、納得感の高い解決策を提示するということに
強みがあったということに気づいたのは、私がその会社を辞め、
コンサルタントとして活動し始めた頃だった。

もちろん、完全に理100%、情100%という人はいない。
誰しも、理の部分と情の要素を持ち合わせているものだが、
大切なのは、その割合がどの程度か、ということである。
当時の私は、情のウェイトが極めて高かった一方で、
良い関係を構築できなかった相手は理の割合が高かった。
要は、お互いのタイプが異なるにも関わらず、それに合った
適切な対応ができていなかったのだ。

現在の私は、コンサルタントとして論理思考は不可欠のため、
その力をつけるべく学んできた。
また、もともと素の自分に多く含まれているのは情だという
ことを強く認識しているため、ビジネスシーンにおいては、
意識的に理の要素を高めようと努めている。
その結果、何とか成果が出せているのではないかと考える。

さらには、理のウェイトが高いと感じた方に対するアプローチと、
情の占める割合が高いと判断した相手に対する働きかけを、
意識的に変えるということを行っている。
具体的には、理の相手には、根拠や証拠、数値データなどを
しっかりと用意した上で、理路整然とした説明を心がける。
情の相手には、最終的にどのくらいハッピーになれるのかとか、
ワクワクするような状態をリアルにイメージして頂くといった
アプローチを行う。
もちろん、理が高い相手にも熱く語ることは必要だろうし、
情の相手への論理的な説明が効果的であることは当然だが、
どのようなアプローチが、より相手に響くか、ということを
考える際に、この「理」と「情」は有効ということだ。

最後に、まずは自分のタイプとして、「理」と「情」、
どちらの割合が高そうか、意識していないとどちらが優先するか、
その程度はどのくらいか、などを考えてみることをお薦めする。

そして、もしも信頼関係を築きたいのに、まだそのレベルに
至っていないという相手がいる場合、相手はどちらのタイプなのかを
想像した上で、相手に響くアプローチを考えて実行してみると、
今までとは違う状況になるのではないだろうか。

このコラムが、少しでも皆様の参考になれば、うれしい限りです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
(2013年3月 藤原 貴也)