2013/04/11

秦の後先…古代中国の古典を楽しむための豆知識


古代中国について想いをめぐらせるときに、私は時間軸と空間軸を意識します。歴史と地理と言い換えてもよいかもしれません。今回のコラムでは、時間軸より、物語は秦以前、編纂・注解は漢以後という話をしたいと思います。

日本人に馴染みの深い論語、孟子、荀子、老子、荘子、韓非子、孫子、呉子などの古代中国の古典から数多くの故事・名言・名句が生まれています。それらは、古来中国より言い伝えられ、日本人にとって教養の源であり、貴重な人生訓・処世訓になっています。これらの古典の舞台は2,500年以上前の春秋戦国時代です。2,500年以上前に活動した諸子百家とも呼ばれる人たちの言葉はどのようにして語り継がれてきたのでしょうか。

今の世の中は電子書籍が登場して本を読むスタイルも変化しています。論語を電子書籍で読みながら、ちょっと手を止めて孔子の情報を集めたり、湯島聖堂を調べたりすることも手軽にできそうです。本をタブレットに格納するといった紙情報の電子化もたやすくなり、本当に便利な世の中になったと感じます。
では、孔子が活動した時代はどうだったのでしょうか。古代中国ではいくつかの材料が紙の代わりに使われました。3,000年以上前の殷の時代には亀甲や牛骨に文字を刻み、殷・周の時代には青銅器に銘を刻しました。戦国時代には木や竹に筆を使って字を書くことが行われ、上流階級では書写の材料として絹布も使われていたようです。ただ、中国に紙が出現したのは漢になってからのようですから、春秋後期の人である孔子が自分の考えを紙面で述べることはなかったかと思います。

私たちが手にしている中国の古典は春秋戦国時代の思想家の言行録ですが、その著作時期は、秦以前とする説、秦漢以降の書とする説、両者の折衷説があります。ただ、近年になって戦国時代の墓から思想関係の文献(竹簡)が出土していますので、次第に著作時期などが明らかになるものもあると思います。
秦が中国を統一した紀元前221年から15年後の紀元前206年に、楚漢の戦い(項羽と劉邦の戦い)を経て、漢が天下を統一しました。この漢の時代になり、論語が編纂されたり、司馬遷が史記を編纂したり、古代中国の思想の百家全書ともいわれる淮南子が編纂されたりしています。儒家、道家、陰陽家、法家、名家、墨家、縦横家、雑家、農家、小説家、兵家などに学派が分類されたのも漢代です。また、私たちが日常使用している漢字について、中国で最初の字典とされる「説文(せつもん)」が著されたのも漢代です。そして、儒教が国教となったのも漢の時代です。

その後、南宋の朱熹が新しい儒学である朱子学を大成し、儒教の基本的な経典として四書(大学・中庸・論語・孟子)五経(書経・易経・礼記・詩経・春秋)が確立されました。

このように中国古典はその思想家が活躍した時代(秦以前)と思想が書物として成立する時代(漢以後)が異なり、その成立まで長い年月を要しています。悠遠な歴史のなか生成された古典は、心のやすらぎ、人生の指針、教養の源、ビジネス社会を生き抜く知恵として役立つのではないでしょうか。
(2013年4月 吉田 健司)