2015/11/15

杭打ちデータ改ざんに思うこと

横浜市内のマンション傾斜事件を端緒とした、杭打ちデータ改ざん問題が世間を騒がせている。事件発覚当初から予想されたことではあるが、問題はやはり拡大の様相を呈している。横浜での事件を起こした旭化成建材が過去10年間に全国で施工した3,000余件のうち、少なくとも260件強で改ざんがあったことが分かっている。対象の建物もマンションだけでなく、公共施設や病院、オフィスビル、商業施設など多岐にわたっている。

データ改ざんに関与した現場担当者は、旭化成建材だけで50人以上いるとのことだが、同様の行為は同社だけでなく、業界では日常的に行われていることだと、匿名の工事関係者がテレビ番組のインタビューで語っていた。おそらく、その通りなのであろう。案の定、業界のトップ企業からも、データの流用を発見したことが発表された。

この手の事件を見聞きするたび感じるのは、普通の人たちに不正行為を働かせてしまうような組織や業界の風土・文化、あるいは不正発生のメカニズムの怖さである。今回の杭打ち改ざん問題についても、現場で施工にあたる下請け業者には、販売会社や元請けからの工期厳守のプレッシャーが常にのしかかり、とても再工事や再検査を言い出せる環境ではないらしい。ゆがんだ業界構造の下、不正は蔓延し、常態化して行った。

私が以前勤めていたメーカーでも、ある時、ある製品の官公庁入札について、公正取引委員会から談合を摘発されるという不祥事が起きた。対策を担当することになった私は、実態を調べるために社内外の多くの関係者にヒアリングを行ったが、皆、個人としては善良で常識ある人たちであった。初めは業界の慣行に疑問を感じたという人もいたが、何年か携わるうちにそのような感覚は薄れ、業界工作にも抵抗感なく仕事として取り組むようになっていったという。

別の、就職して以来長年その仕事にだけ従事して来たという商社の社員は、自らの職業人生を全否定されたようだと話した。その後、その人は欠勤を続け、結局、その会社を退職してしまった。文字通り、人生を狂わされてしまったと言えよう。

仲間内の暗黙のルールである集団規準というものは非常に強力で、集団を構成するメンバーを強く拘束するということが、いろいろな研究によって明らかになっているという。特定の組織や業界にある程度の期間属していると、よほどの鉄の意志を持った人でない限り、組織の風土や業界の慣習に抵抗して行動することはできないだろう。この点、ビジネスマンも中高生と同じである。

しかし、ある時突然、組織や業界の常識が世間一般の常識と対峙を迫られるような状況が発生することがある。この時、初めて人は我に返り、自分たちの行動の非常識さを思い知る。あるいは思い出す。そして、責任を問われる。私利私欲から行ったことでなくても、である。

一度形成されてしまった組織や業界の不文律に抗うのは、非常に難しい。構造改革が必要である。一方で、良き風土も悪しき風土も人によって作られる。是々非々をきちんと言える人を育てる教育も大切である。大人になってしまった我々も、日々自らを振り返らなければならない。それが、自らを守ることにもなる。
他山の石にはこと欠かない毎日だが、もしかしたら、あなたが些細なことと思ってしていることも、世間の目から見ると・・・。

2015年11月 福泉 裕