2016/04/10

高校野球に見る「ほめる」ことの大切さ

 今年の選抜高校野球が、先日閉幕した。今回は、奈良の智弁学園が延長十一回 の末、2-1のサヨナラ勝ちで香川の高松商を下して初優勝を飾った。惜しくも優勝を逃 した高松商だが、公立高校で、生徒は地元ばかりの野球部ということでも話題になった。今年の選 抜大会では、参加32校のうち、24校が私立で、一般参加の公立校は5校だけだった(他に21世紀 枠で3校が出場)。

 近年は、私学の躍進ぶりが目覚ましい。その実態は、全国各地から優秀な生徒 を集めたり、潤沢な資金で充実した練習環境を整えたりという状況が聞こえてくるが、全選手 が香川県出身の高松商は、なぜ並み居る私学に勝利できたのか、その要因を探ってみたい。

 調べてみると、監督の長尾健司氏の存在が大きいことがわかった。2014年の4 月に、公立中学と公立高校の人事交流という名目で、香川大教育学部附属坂出中学校から高松商に 異動となり、野球部の監督に就任した。長尾監督は、県下有数の進学校である坂出中学でも、 全国大会出場を果たしている。坂出中と高松商、両校の指導において、長尾監督が大切にしてい たのは、生徒の自立や自主性を重んじる点だ。以下は長尾監督の言葉である。

「自分たちで考えて野球をしなさい。間違ってもいいから自分で決定しなさい」
「部長がガツンと言っているのを見て、僕もガツンと言ったら、コイツら行き場 がなくなるなと。
 認めてやった方がいいというのもあって、どちらかというと、コイツらを信じ て長い目で見ようと。
 金八先生の歌じゃないけど、人を信じて傷つこう。オレが傷つくならええかと」

 関係者いわく「長尾監督が来てから、選手の表情が変わった。みんな楽しそう に野球をやっている」

 ちなみに、高松商と同じように、過去に公立高校が躍進した年があった。2009 年の清峰高校(長崎県)は選抜大会で優勝、2007年に夏の甲子園大会に出場した佐賀北高校も優勝という輝 かしい結果を残している。両校と高松商との共通点は、やはり『ほめる』ことだった。

 清峰を率いていた吉田洸二監督は、強さの秘密は管理をせずに自主性を重視し た伸び伸び野球だと述べている。生徒をほめたり、質問したりすることが多いとのことだが、吉田監 督はビジネスにおいて有効だと言われている『コーチング』を学んで活用していたということで も話題になった。

 同様に佐賀北の百崎敏克監督が大事にしていたことも『ほめる』こと。自校の 生徒はもちろん、対戦相手のことも素直にほめるということが話題になった。その姿勢や言動によ り、多くの観客たちやマスコミなどからの大声援も受けつつ、佐賀北の選手たちは持てる力以上のも のを出せたのではないかという分析もされた。

 さて、話をビジネス社会に戻そう。最近の若者は、ゆとり世代などと言われて いるが、厳しく怒られることに対する抵抗がある一方で、自分をほめて欲しい、認めて欲 しいという欲求が強いと言われる。しかし、これは何も最近の若者に限ったことではないだろう。 ほとんどの人は、ガミガミ怒られるよりも、良い点をほめてもらえたり、承認してもらえたりする と、うれしい気持ちになることだろう。このシンプルな原理原則は誰しも知っているはずだが、いざマ ネジメントとなると、なぜか実行できない人が多いのもまた事実である。翻って、家庭での教育におい ても、同様のことが起きてはいないだろうか。

 怒鳴って教育するよりも、良い点を認め、ほめて伸ばす。

 非常にシンプルなことだが、企業研修講師や人事コンサルタントとして、多く のビジネスパーソンに接していると「部下を怒ることはあるが、ほめることはほとんどない」という声 を多く聞く。

 もしも、同じような読者の方がいらしたら、ぜひ明日から、思い切ってまわり の方をほめてみましょう。まずは、相手の良い点を探すことから始めてください。次は、照れやプライドな どを払拭し、勇気を振り絞ってプラスの声掛けをしてみてください。相手はもちろんのこと、ほめた 自分自身の気持ちも明るく前向きになり、お互いに笑顔が生まれるはずです。いきなり部下をほめる のはハードルが高いという場合には、お子さんでも、どなたでも構いません。できそうな相手から、ぜ ひ始めてみてください。ほめ上手になると、お互いの関係性も向上し、必ずや良い状態になりますよ。

2016年4月 藤原貴也