2016/08/01

会計事務所の未来

AI、 VR、 AR、 ロボット、ブロックチェーン、 IoT、 シンギュラリティ――
近頃目にすることが多くなった言葉だが、これらは、現在のITの技術革新を説明する言葉である。
AI(人口知能)については、ディープラーニング(深層学習)という新技術で、囲碁の人工知能「AlphaGo(アルファ碁)」が韓国のイ・セドル九段に今年3月に勝利したニュースが記憶に新しいところであり、VR(仮想想現)、AR(拡張現実)については、ポケモンGOがこの夏世界を席捲していることにより身近なものとなってきている。いずれも以前から研究開発されていた技術ではあるが、技術が開花したというところでは、2016年はIT新技術のブレークスルーを象徴する年ともいえよう。
話はかわって、私は長らく会計事務所業界に身を置いているのだが、こうしたITの技術革新の進歩は20年後、30年後にどのような成果を会計事務所業界にもたらすのであろうか。そして、会計事務所の仕事はITの技術革新によりどのように変容していくのであろうか。最近、そんな会計事務所の将来展望に思いをはせたことがあった。

過去を振り返ると、Windows普及前は財務オフコンといわれる専用オフィスコンピュータによる会計処理の時代があり元帳転記・精算表作成といった手作業が機械に置き換わった。Windowsパソコンの普及機に入ると、「弥生会計」、「勘定奉行」、「PCA会計」、「会計王」、「財務応援」といったパソコンソフトメーカーが乱立し、パソコン会計処理が一挙に身近なものへと普及した。そして、現在は「freee」や「MFクラウド会計」に代表されるクラウド型会計ソフトが普及しはじめ、アカウントアグリゲーションといったFinTech技術の活用を通して、人的な入力プロセスの省力化が図られるようになってきている。電子レシートの導入実施が近いものと予想されるなかで、必然的に会計事務所の記帳業務はなくなっていくだろう。

さて、この先の未来については、どうなのだろうか。未来など明確に予測できるものではないが、ここに将来を読むとく鍵となる一冊の本がある。

<インターネット>の次に来るもの 未来を決める12の法則 
ケヴィン・ケリー NHK出版

Wiredの初代編集長でもあった筆者が、この30年経験した様々な事柄から、必然的に見いだされるIT進展の方向性を、12のキーワードから読み解いていったものだ。このなかにSharingというキーワードがある。個人が持つ住宅や自動車などの資産を貸し借りできる「シェアリングエコノミー」は、すでに民泊を仲介する「Airbnb(エアビーアンドビー)」、配車サービスの「Uber(ウーバー)」に代表されるように、急速に普及が広がっているが、シェア、協調、コラボレーションといったsharingはさらに大きく進展していくという。

「シェア可能なもの――思想や感情、金銭、健康、時間――は何でも、正しい条件が揃い、ちゃんとした恩恵があればシェアされる。」

近い将来、Sharingが進めば、ITを通じた多様なプラットフォームに属した人間が、案件ごとに仕事をシェアリングして、共同作業で(なかには顔を合わせたこともない人と)能力を発揮して仕事をしているというのが、近い将来の人々の(もちろん会計人も含めての)働きかたであろう。そのころには進歩したAIが人々の知性・知的労働を大きくカバーしてくれるであろうから、そこで本質的に人に求められるのは、新しい発想による企画力、それを形にする提案力、仲間同士のコミュニケーション力、プレゼンで関係者を巻き込むパフォーマンス力といった人間的能力なのかもしれない。

テクノロジーの破壊的進化の流れは不可避であり、我々を取り巻く個々レベルのプロダクト、ブランド、企業や組織といったところの変化については予想不能である。ただ、一方で大きな進展の方向性は捉えることができ、我々はその意味で混迷した時代に前を向いて未来の選択を行うことはできるだろう。

“未来についてわかっている唯一のことは、今とは違うということだ”
ピーター・ドラッカー
2016年8月 長田 和弘