この時代の中国の古典といえば論語、孫子等がよく知られているでしょう。論語は儒教のもっとも基本的な経典とされてきた四書五経の一つで、孔子の思想を伝える書として広く読まれていると思います。四書とは大学・中庸・論語・孟子、五経とは書経・易経・礼記・詩経・春秋を指しています。孫子は孫子の兵法として親しまれていると思いますが、兵法書には他に呉子・司馬法・尉繚子・六韜・三略等があります。歴史書では前漢時代司馬遷の撰著である史記が有名です。他の思想書として老子・旬子・荘子・列子・韓非子・戦国策・管子等もあります。また、考古学的には甲骨文や金文の研究関連書もこの時代を知る資料として大変面白いです。
私はこれらの古典の中でも、特に管子と韓非子の愛読者です。管子は春秋時代の斉という国の名宰相管仲の言動録です。管仲は法家のはじめとも政治家、経済家とも言われることがある人で、史記列伝では二番目に管・晏列伝として記述されている人物です。韓非子は秦が統一にむかう時代の韓という国の公子で、秦王政(のちの始皇帝)に建策し評価を受けたものの、死を賜り秦で最期を遂げた人物です。法家の思想を大成者とされ、性悪説の旬子の弟子であり、その非常な人間観も興味深いところです。史記列伝では三番目に老子・韓非列伝として記述されています。管仲から韓非までを考えると法家の思想は400年以上かけて大成されていったことになります。
中国の歴史小説を数多く書き、管仲を主人公にした作品もある作家宮城谷昌光氏は、著書春秋名臣列伝で管仲をおそらく中国史上最高の宰相と書いています。金文の世界(白川静著)によると宰相の宰は、たとえば「先王が汝を宰に命じて王家を治めしめたが、いまその命を認証し、王家の外内を治めさせる」というように金文にもすでにみえています。この君主と宰相の関係を現代の企業に当てはめて考えるのも歴史を学ぶ楽しさです。
中小企業白書(2005年版)では経営者は企業の今後を左右する重要な決断をしなければいけないが、経営上、もっとも頼りになる「右腕」となる人材をおくことによって、経営者が誤った判断をしたとしても正すことが可能になるとして、経営者を補佐する人材として「右腕」の存在を挙げています。春秋・戦国時代の各国の君主と臣下の物語は、経営者と右腕の関係や、経営メンバーとの関係において、いろんな示唆や教訓を与えてくれると思います。
また、この時代からは集団を動かすことを学ぶことができます。当事の戦争は人と人の戦い、人の集団の戦いであり、戦争の物語は組織の行動学につながるものがあると思います。私は、当時の気候、地理、民族、文化、宗教、思想等をふまえて、時間的空間的に思考をめぐらしながら、情報・学習・思考・行動をキーワードに古典を読んでいます。情報収集に勝るもの、学習し思考を巡らし行動する質の高さで勝るものが勝者のように思えてなりません。古代中国の風景は現代を生きる私たちに多様な知恵の源を見せてくれます。歴史を学ぶことはとても素敵なことだと思いませんか。
(2010年1月 吉田 健司)