2014/04/01

現実味を帯びてきた植物工場

 個人的に関心のあった農業の工業化であるが、先日ある企業の植物工場を見学する機会があった。 最新の技術について概要説明を受ける中で、改めてビジネスとしてのポテンシャルの可能性を考えさせられた。 以下に感じたところを課題とともにまとめてみたい。

21世紀の地球に住む我々人類には解決すべき課題は多い。 その中でも、最大の課題の一つに「人口増加」問題があげられる。 何しろ、18世紀産業革命直前の世界人口が10億人だったのに対し、第二次世界大戦後には25億人、2000年には60億人、そして2011年には70億人を突破し、今世紀末には100億人を超えるとの予想もされているのである。

人口増加に伴い問題となるのが、エネルギーであり、それによる気候変動であり、水や食糧の確保である。 人口の増加には作物の増産が不可欠となるが、人口の急激な増加やエネルギー使用量の増加は、気候変動につながり作物生産量を不安定にする。 そしてそれは、我が国の安定的な輸入食糧確保の危うさを意味し、安全保障上のリスクにつながることを意味する。
※ 日本の食糧(カロリー)自給率39%、野菜自給率81%

一方、食糧を海外より大量に輸入するということは別の視点(物流エネルギーの大きさ)からも問題となっている。 フードマイレージ「輸入相手国からの輸入量と距離(国内輸送を含まず)を乗じたもので、この値が大きいほど地球環境への負荷が大きい」という指標があるが、日本は、現在(総量/1人当たり共に)世界一である。 すなわち日本国民は食糧に関して贅沢であり、地球環境に大きな負荷を排出しているとみなされているのである。

一口に食糧といっても、価格競争力が必要で長期保存が可能な豆類や穀物はともかく、鮮度が命の野菜類でさえ自給できていないという現実は深刻といっていい。 野菜生産における課題の一つに、異常気象による生産量の減少とそれに伴う小売価格の高騰があり、レタスの場合で最大4倍にも及ぶとも言われている。 野菜供給の不安定さが消費者に与える影響は大きい。

そのような背景のもと生まれたのが今回見学することになった「都会型植物工場」である。 植物工場は、(a)太陽光利用方式、(b)完全人工光方式 に分類できるが、今回の工場は(b)に該当し、以下の特長がある。 従来農業と比べ、①生産の確実性:生産サイクルが1/2~1/3、計画通りの生産量の確保が可能で、生産原価の変動が少ない、であり、(a)と比べ、②土地利用効率の高さ:水耕栽培により土地を空間的に活用でき、5~6倍の集積栽培が可能、③地産地消:消費する場所で生産することで、物流エネルギーが大幅に削減できること、④高品質:無農薬、土なし、虫なし、洗う必要なし 等に優れる。

植物工場の研究開発は、日本では1975年頃から始まっている。 完全人工光方式の場合、当初より運転費用としての照明コスト(電気エネルギーを光エネルギーに変換し、葉の葉緑素がそれを有機物に変換)がビジネス展開上のネックになっていること、また植物の生長には、白色光(連続した波長帯)は必要とせず、特定の波長帯(赤色:660nm、青色:460nm)のみでよいことが解ってきていた。 そのような中、照明手段が蛍光灯しかない時代には叶わなかった照明コストの問題も、数年前の技術革命(青色LEDの出現)により照明コストは1/3に大幅に削減することができるようになり、現在ではコストの問題はビジネス化に向けての致命的な阻害要因ではなくなりつつあるという。

6次産業化の推進が叫ばれている今日、行政を含めたさまざまな支援も強化されており、労働集約的な雇用機会の確保の面でも大都市近郊における植物工場への期待度は高くなっている。 そのような中、かつて農業とは縁の遠かった大都市オフィス街においても小規模でありながらもビジネスとして成立しうる魅力的な都市型植物工場(サイズL2m × W1m ×H2.5mのパッケージで約350万円)が開発され普及し始めている。 都会の空オフィスをそのまま活用でき、店産店消レストランをアピールするアイキャッチポイントとして、また高品質野菜を謳うことによるによる新たなマーケットの創造 等、差別化に有効な手段となりうるのである。

このように都市型植物工場の可能性は広く明るいが、事業を安定的に継続し雇用を守るためには綿密な事業計画の策定が必要となる。 ビジネスモデルとしての今後の課題は、①需要にあった野菜種の選定:高付加価値野菜(ハーブ等)への需要取り込み、②安定した販路の確保、があげられるが、ここに中小企業診断士の出番がありそうで、ワクワク感を感じるところでもある。
(2014年4月 後藤泰山)